書店員のよしなしごと

読んだ本についてぼちぼち紹介いたします。

端正な筆致による極上SF短編「象られた力」

 先日、神保町のブックフェスに行ってまいりました。

 早川書房さんに並んで東京創元社さんに並んだら、もう大体力尽きてしまってわりと早々に引き上げてまいりました。

 来年はもう少し下調べをした上で気合いを入れて臨みたい所存。

 

 さて、そこで購入したのが今回の書籍、「象られた力」です。

 著者の飛浩隆さんは今年、表題のデビュー作を含む作品集「ポリフォニック・イリュージョン 初期作品+批評集成」(河出書房新社)、そして最新刊「零號琴」(早川書房)と二冊の単行本を世に送り出しておられますが、少なくともこれまでは寡作な作家さんでした。

 実のところ私はわりと最近までその存在を知らず、読むのも本作が初めてでありました。

 しかしながらこれが、一読してみれば、なぜもっと早く読んでおかなかったのか、と思うような粒揃いの作品集でした。

 収録されている作品のうち、一番あたまに来ている作品は「デュオ」というタイトルの、ある双子のピアニストをめぐる話です。

 凄まじいまでの才能と技術を持つ双子が奏でるピアノは、聞く者の感情を大きく揺さぶる、人智を超えた、と言ってもいいほどのものとして描写されます。

 その双子の音楽を、文章の力ですくい上げる著者の筆致こそ実に素晴らしく巧みで、読者は異星の自然や、遥か未来の建造物などなど、様々な未知のものを視覚的に楽しむことが出来ます。

 もちろん作品の魅力は文章的なテクニックだけでなく、語られるストーリーも素晴らしい。

 登場人物もそれぞれ個性的で、全体にエンタメ色がわりと強く、褒め言葉になるのかどうかは読者によるかと思いますが、SFの中ではむしろソフトな部類かと思います

 収録作の一つ「呪界のほとり」などは、そのタイトルからも感じる通り、SF的技術の発達した超未来を舞台にしているにもかかわらず、むしろファンタジーっぽさがかなり強く(竜も出てくるし)、そういったエンタメ小説を好まれる方は、取っつきやすいのではないでしょうか。 

 

  つぎは最新作の「零號琴」を是非読んでみたいなぁ、と今からワクワクしております。

 

BOOK INFO

「象られた力」

出版社:早川書房

著者:飛浩隆

ISBN:9784150307674