今年も期待通りの鮎川哲也賞受賞作「探偵は教室にいない」(10月26日訂正あり)
例年楽しみにしている、鮎川哲也賞の受賞作が今年も出版されました。
タイトルを見たときに、察するに日常の謎を扱った青春ミステリであろう、と思いました。巻末に掲載の選評を読んでも思うことですが、北村薫さんや米澤穂信さんが選考を勤められる賞に、日常の謎もので真っ向勝負を挑み、そして結果を出すというのが凄い。
きっと面白かろうと期待して手に取りました。
舞台は北海道。中学生の少女、海砂真史(うみすなまふみ)は、ある日、差し出し人不明のラブレターを受け取ります。その手紙について相談する相手を探した時、彼女が思い出したのが、長らく没交渉になっていた頭のキレる幼馴染の少年、鳥海歩(とりかいあゆむ)でありました。
数年ぶりに再会した幼馴染の持ち込んだ謎に、手土産の好物のケーキを報酬がわりに、少年が挑みます。彼はどうやら不登校なのですが、その彼が学校のミステリに挑むというのは、一種の安楽椅子探偵ものと呼べそうです。
単純なロジックにとどまらず、その裏にある人間の心情をも読み解く堂に行った探偵っぷりは中学生とはとても思えないほどで、不登校でありながら自由気ままに行動している風な様子を見ても、歩少年にはどこか謎めいたところがあります。が、そのあたりは作中では触れられません。
このあたりは次回作への布石ではなかろうかなぁ、などと思っています。
作中、バスケットボール部に所属する真史が、バックボードにもリングにも触れずにネットを揺らす改心のゴールを決めるシーンがあります。
デビュー作でありながら非常に文章が読みやすく綺麗で、ことに各編の最後の一文などは、そのシュートを思わせる研ぎ澄まされたもので、そのために作品が際立っているように感じました。
次回作が同じく青春ミステリものになるのか、あるいはグッっと舵を切ってくるのかはもちろんまだ分かりませんが、いずれにしても楽しみな、確かな実力をそなえたミステリ作家が、また一人現れたなぁ、と思います。
(10月26日 追記)
鮎川哲也賞の選考について、米澤穂信さんのお名前を挙げましたが、誤りでした。
ミステリーズ!新人賞と混同しておりました。
訂正しお詫び申し上げます。
Book Info
探偵は教室にいない
著者:川澄浩平
出版社:東京創元社