書店員のよしなしごと

読んだ本についてぼちぼち紹介いたします。

あの「屍人荘」の続編、「魔眼の匣の殺人」

あの「屍人荘の殺人」の続編がついに出た。発売日をじりじりしながら待っていた人も多いのではなかろうか。

そうした人の中には、きっと一つの疑問があった事だろうと思う。
その疑問とはすなわち、新作はこの膨れ上がった期待に応えてくれるのか。「屍人荘」の続編、というハードルを越えることはできるのか。

つまり「魔眼の匣の殺人」は面白いのか?

前作「屍人荘の殺人」は

「屍人荘」は東京創元社が主催する文学賞、第27回鮎川哲也賞を受賞して、著者今村昌弘氏のデビュー作となった作品である。

鮎川哲也賞は「創意と情熱溢れる鮮烈な推理長編」を募集するもの。
「屍人荘」はまさにその通りのミステリ長編であった。
その「創意と情熱溢れる鮮烈な」発想のインパクトたるや相当なもので、アレを論理的な本格推理と結びつけたのは本当に見事だった。

細部に至るまで気を配って書き上げられたのだと思う。

世間的にも非常に高評価を得た。2017年末の「このミス!」や「本格ミステリランキング」などのミステリランキングで次々と一位を取り、本屋大賞でも第三位に食い込んだ。 映画化も決定している。
近年稀に見る華々しいデビューである。

「屍人荘の殺人」をまだ読んでない、と言う方ははぜひ手に取っていただきたい。
文庫落ちを待たれている方もいらっしゃるだろうけれども、不意のネタバレを受ける前に読んでいただきたいと切に願う。

「あと二日で四人死ぬ」

帯にもある上記の文句の通り、本作の大きなテーマは「予言」である。
前作「屍人荘」でも、ある超自然的な現象(例のアレ)が描かれた。

論理によって支配されるべき本格推理の世界において、論理から逸脱した超自然現象は相性が悪いように思われるが、今作でもオカルトが本格推理をしっかりと引き立てている。 オカルトと本格推理の調和という点においては、前作を凌駕しているとすら言えるかもしれない。 このあたりのバランス感覚が本当にすごいと思う。

「屍人荘」ではあるテロ事件がきっかけとなって物語が転がりだすのだが、そのテロ事件の発端をなすのが「班目機関」なる謎の組織の研究成果であった。

前作ではその「班目機関」の謎は明かされることなく物語は幕を閉じ、今作において主人公葉村譲と剣崎比留子は大学生活へ戻りながらも、引き続きその機関についての調査を継続している。

そんな中、二人は『アトランティス』なる怪しげなオカルト雑誌に件のテロ事件が予言されていた、という情報を得る。また、その誌面には、その予言というのが『M機関』なる組織の実験の成果である可能性が示唆されていた。

その情報を元に、二人が向かった先こそが『魔眼の匣』。W県、人里離れた山奥に存在する施設であった。

そして『魔眼の匣』は閉ざされ、事件が巻き起こるわけだが、それが如何なる帰結を迎えるのかはぜひ実際に読んで楽しんでいただきたい。  

次回作は

今作を読んでいて、比留子と葉村の共通の目標を持った協力関係とでも言うべきものが、今後どのように変化していくのだろうか、というのも気になった。
なぜか殺人事件に巻き込まれる比留子の体質など、伏線と思われる要素や謎もまだまだ残されている。   『屍人荘』で鮮烈なデビューを飾った今村昌弘氏による第二作を、今回、期待と不安をもって手に取った。
しかし、前作のハードルをしっかりと超えた今作を読み終えた今、もはや不安はない。さらなる飛躍を期待して、次回作の刊行を待ちたい。

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