書店員のよしなしごと

読んだ本についてぼちぼち紹介いたします。

「最初の悪い男」 ミランダ・ジュライ

 信頼と実績の新潮クレスト・ブックスより、ミランダ・ジュライの新刊「最初の悪い男」を読みました。

 個人的には初ミランダ・ジュライです。

 既刊は短編で今回が初の長編小説とのこと。

 読み終わって、ミランダ・ジュライのことをwikipediaで調べてみたんですが、非常にマルチな活動をしておられる方のようです。

 不勉強でお恥ずかしながら、そのどれにも触れたことがないので、この作品が過去のものと比べてミランダ・ジュライらしいとからしくないとか、より面白いとかそうでないとかそう言った比較は出来ないのですが、個人的な感想をつらつらとしていきたいと思います。

 

  さて、本作には二人の女性が登場します。

 一人はシェリル。43歳の女性で、職場の年上の男に片想いをしています。冴えない中年女性で、自意識が高く、自分の妄想の世界に暮らしている、そんな女性です。

 もう一人がクリー。シェリルの上司の娘で、ある時シェリーの家に転がり込んできます。美人で、巨乳で、しかしガサツで足が臭い。

 読んでいてまず思うのは、二人とも身近にはいて欲しくないタイプだな、ということです。

 しかし、一方で街のどこかですれ違っていてもおかしくない、そう思えるような人物でもあります。

 

 物語は主にシェリルの視点で進行します。

 シェリルは、自分は満たされた生活をしていて、片想いの相手もいずれ自分を振り向くと信じているようです。しかし、読者の視点からは、そうではない。抑圧されたコンプレックスを抱えているように見えます。言葉を選ばずに言えば、妄想の世界に閉じこもるイタイ人に思えます。

 ただ、彼女のことを滑稽な女だと笑うことは、私にはどうにも出来ませんでした。なんとなく、感情移入してしまうのですね。作者の実力故のことなのか、あくまで個人的なことなのかはよくわかりませんが。

 そんなシェリルのもとに、相性最悪、水と油のごとく正反対な人物であるクリーが転がり込んでくることで、シェリルのある意味安定した生活は千々に乱れ、ぶち壊しになります。

 ストレスが蓄積され、蓄積され、やがて決壊し、二人は激しく衝突します。

 しかし、それをきっかけに奇妙な絆が結ばれることとなります。

 そして、シェリルは、元の自分に幾分か愛着を感じつつも、否応なく変化をしていきます。

 この変化をさして、成長、と言っていいかは個人的にはちょっと悩ましいところです。ン十年間かけて積み上げてきた自身の価値観や生活を捨て去り、変化することは、さて成長でしょうか。

 そんなわけで、この作品を中年女性が主人公の、大人の成長物語である、というのはなんとなく違和感があります。もうちょっとバチっとはまる表現がありそうな気がするのですが……。

 ともかく、シェリルとクリーという二人の、それぞれに独特のキャラクターを持った女性の関わりと変化を通じて、人それぞれが抱える複雑さを、まとめてまるごと暖かく励ますような小説でした。

  ちなみに、途中に性的な描写がぼちぼちあるのですが、この辺りに個人的にはやや苦戦しました。必要な描写と思いつつちょっと生臭いというか。

 それを含めても非常に読みやすく、ぐいぐい読み進めてしまいました。既刊の短編小説もいずれ読んでみたいと思います。

 

BOOK INFO

「最初の悪い男」

出版社:新潮社

著者:ミランダ・ジュライ

訳者:岸本佐知子

ISBN:9784105901509

公式HP: http://www.shinchosha.co.jp/book/590150/